Dear YOU



Dear YOU


あなたに名前を付けてもらってから、12年目の秋が来た。
私はいつからわたしで、いつまであなただったんだろう。
あなたのとなりに居たのに、あなたが居なくなってしまってからは、
ずっとわたしが続いている。
あれから大変な思いもたくさんしたけれど、今ではもうあなたのことも、
あの子のことも、恨んでいないよ。
わたし達は、またひとつに集まって、あの子の一部になったのだから。


ちょっと前は、わたしはあの子とは違うって、
一緒じゃないって反発して認められなかったけど、
最近はね、わたしが絵に何かを描くときに、
どうしてこれを描くんだろう?どうしてこういう考えになったんだろう?
と、疑問を持つようになったの。
きっとあの子の考えていたことをたどれば、わかってくるんだろうと思った。


あの子はね、特別になりたかったんだと思う。
あの子が小学2年の頃、知っている。
クラスに1人ぐらいしか居なかった、めがねの子。
いいな、って思ったんだよね。
だから、ルーペ持ち出して、目が悪いフリをしたの。
どうしたの?って心配されたくて。
左利きになろうとしたこともあったよね。
ほら、左利きって少ないから、珍しがられるでしょ。
きっとあの子は何も持っていなかったから、特別なものを持っている人、
つまり少数者になりたかったのかな。
みんなと同じはイヤだって。


だからかな、わたしもそういう考えなの。
あの子と同じで、少数者にうらやましいという感情を持ってしまう。
なんだか特別な気がして・・・
特別じゃない自分は、誰からも気にかけてもらえないような気がした。
偽って、まとって、本来の自分ではない特別になろうとした。
でもそれは間違いなんだと思うよ。
本当の自分の姿じゃないもの。
ちっぽけでからっぽで、そんな自分を埋めたくて、満たしたくて、
あの子はわたし達を生み出したんじゃないかな。
ねぇあなたは、何を感じて生きていたの?
多くのひとつにはなりたくないって、もがいてた?


スクランブル交差点に多くの人々が行き交う。
例えばその中の1人を選んでみる。
わたしにとっては、その人は、行き交う多くのうちの1人だ。
全然特別じゃない。
それが多のひとつ。
多くの中に埋もれて、アリのように見分けがつかなくて。
そんな中で、誰かに必要とされたい、誰かの特別になりたいって、みんな望んでる。
その誰かって、たぶん1人でもいいんだ。
必要とされるって、喜びだから。
そしてわたし達はあの子に必要とされていた。


世界がわからなくて、人がどんな気持ちで生きているのかがわからなくて。
自分以外の人間みんなが敵に見えたの。
でも、多のひとつにはなりたくない、誰かに必要とされて、特別になりたいって気持ちを、
誰もが持っているのかもしれないって思ったら、周りに敵なんて居ないんだって思えたの。
人間っていう、ひとつの仲間になれる気がしたんだ。


人間は孤独感を感じてしまう生き物で。
でもみんなそう感じている。みんな孤独なんだ!
だからみんな孤独じゃないんだ!
おかしいかな、そう考えるようになったの。


わたしもあの子も、多のひとつにはなりたくなかった。
見分けのつかない多くの中には埋もれたくなかった。
あの子と変わらない感情を持って、これからもわたしはあの子を背負っていく。
わたし達を証明するために。
あなたには、あの頃と全然変わってないねって言われるかもしれないけど、
わたしはあなたとも一緒に生きていきたいよ。
あの子の身体と、12人の精神で。



From YUPPEI



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